体に愛を刻みたい三十路
付き合って半年の彼は30歳。
今までも、そしておそらくこれからもずっとフリーター。
大学入ってすぐ働き始めた飲食店でのバイト仲間で、とても優しく顔もタイプだし、相性のいい彼と一緒にいられて幸せ。
ハタチの私は、彼とよく「ずっと一緒にいたいね」って話していた。お
互い実家暮らしのため、バイトの休みを合わせては安いラブホテルにお泊りするのが恒例だった。
半年記念日、ホテルに行く前に立ち寄ったディスカウントストアで、彼が突然「俺、お前の名前を腕に刻みたい」って言いだした。
彼の左手首にはタトゥーがあり、数年前に自分で入れたとは聞いたことがあった。
ちょっと待って、名前を刻むって結構責任重大!私まだハタチだし、この人の人生を背負うのは荷が重すぎるかも。
ずっと一緒にはいたいけど、実際結婚するかどうかわからないし。現実的な事を瞬時に色々考えた。
「でも…もし別れたらどうするの?」「別れないよ。いつか結婚するでしょ」としばらく説得を続けられ、「俺がそうしたいんだから、本当に好きなら俺の為だと思ってやらせて」と言われるとなんだかもうどうにでもなれっていう気持ちになって承諾した。
今考えると、下らない覚悟の真似っこだった。
タトゥーの女の名前を刻み込めば、それがカッコイイ生き様だと考えていたようである。
いろいろと社会的に制約されることも、彼は知らなかったらしい。
温泉宿で通報されたり、ショッピングモールでも通報された。
消せばよいのに。
消すには美容外科での手術が必要らしい。
女心はわからない
抱いて欲しいということか?
だが違った、自分の事をそんなに褒めてくれるなら、裸の自分を見ても同じことが言えるのか試して欲しいというのだ。
そして絶対に手は出さないで欲しいと。
僕はこの肌が綺麗で自身の持てない女性に応援したいという気持ちを感じていた。
そしてその時が来た。
恥ずかしいからと電気をすべて消した僕の部屋で、彼女は全裸になり、両手で胸を隠しながら、下を向いて恥ずかしそうに身体を見せてくれた。
電気は全て消したのだが、満月の光でその身体は細部まではっきり見えた。
股間の薄い陰毛がいかにも彼女らしいと思った。
そして驚いた。
彼女が光っているのだ。いや、厳密には肌が白すぎて月光を反射しているのだ。
僕は息を飲んだ。
なんて綺麗なんだろう。
その姿を形容する言葉を今でも知らない。
抱きしめさせて欲しいと僕は言った。
何かをするつもりはなかった。
ただその肌に触れたかったのだ。
承諾の言葉を聞くとそっと、抱きしめた。
柑橘系の香水の香る小柄な身体を腕に抱くと不思議と安心感に包まれた。
「初体験、頑張ってください」
僕はうまく言えない気持ちを言葉にした。
あれから数年。
一人で酒を飲むと今でも思い出す。
月光を反射して白く光るその美しい肢体のことを。
それが僕の知る最も美しい肌である。