夫は園ママとの濃密な妄想のはてに

夫が浮気をした。といってもそれは彼の妄想の世界での話。相手は同じマンションのいわゆる“園ママ友”のひとり。

日々園からの送迎バスを朝に昼にと待つ間、マンションの出入り口に無邪気に居並び、住民たちのひんしゅくにも無頓着な彼女たち。
これにはついてけない、距離を置こうと、思ったその時!事件は勃発した。

数年前のその冬、純然たる好意から、夫はひとりのお子さんの分まで病院のインフルエンザワクチンの予約の列に並んで差し上げた。
「園バスを見送ったら、列で並ぶ人たちの手前、夫婦って感じで一緒に並びますから~」と、彼女とは事前の打ち合わせをした。

病院前に現われた彼女は、ごめーん!と場違いなほどの明るさで、“夫”にムギュっと胸を押し付け、腕を絡ませ、しがみついてきたたらしい。
「らしい」とは、その場にいなかったので私は何も知りようがない。
その日を境に、夫は理性を失った。
恋する男の俊敏さで、相手の姿や声を誰より素早く察知。傍目にも明らかに動揺し出すその顔その姿。
その異変に気づきながらも彼女は、悠然と私達の傍を通り抜け、晴れやかにお仲間の元へ。
中高校生たちがよくする、あの例の排他的な笑いをマンション中に高らかに響かせた。
あの日のことって彼女にはnothing で彼にはsomething なのだ。このギャップに男は苦しむ!
何かの痕跡をどうにかして見たい。一縷の望みを抱いて日々を過ごす男。その傍ら、私は彼女によって園ママ友の輪から仲間ハズレにされ始める。
出会った職場で高嶺の花だった妻が打ちのめされる姿。。そここそが、夫には痛快であり甘美なのかもしれない。
前途有望な人ばかりがいたあの職場。結婚後、彼らと自分の出世具合とを比較しては、打ちのめされ続ける夫に、私は内心気づいていた。
そんな呪縛が解かれた。彼にとっての永遠に光り輝く女神。だったらそれは、浮気を超えた立派な恋だよね?とも思い始めた。
そんなある日、彼女のお腹に膨らみを認め、“夫”は激しい嫉妬に青ざめる。
妊娠だ。今度は肺腑をえぐる屈辱感が彼の顔に。

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